野生動物あらわる

夜、庭先にでてみると、何かいる。雰囲気があやしい。人間かもしれない。
声はしない。草がすれる音がする。
動いた。
地面がすこし響く。人間が動いても、地は揺るがないだろう。
人間以上の体重をもっているのか。
先日出た野犬ではないだろう。あの犬は人間よりも軽い。
などと思っていると、いきなり、
「ドドドッ」
という音を残して、黒い塊が、十数メートル先の草むらの入り口まですすんだ。
こちらをふりむく。

中型のニホンカモシカだ。
ニホンカモシカは人間にほとんど突進してこない。危険な岩場でも逃げ切れる能力が、ゆいいつといっていい種をまもる武器だ。
ヤッコさんこちらを見ている。
しばらく僕は身体を固くしていたが、少し動くと、ニホンカモシカは、踵をかえして、ガサガサした草むらの音を残し、森の闇に消えていった。