「カネを貸すバカ返すバカ」

『大地の咆哮−元上海総領事が見た中国』杉本信行
読み終えた今、あらためて8月3日に亡くなられた杉本さんのご冥福をお祈りします。亡くなられた翌日、新聞の社会面でその記事を目にしたとき、こんなにも早く天にめされてしまったかと非常に残念に思った。現在進行で読んでいた書籍の著者が亡くなるというのもはじめての経験だろう。
そして、杉本さんご本人へのあらがい難い末期がんの宣告が、やはり現役外交官に、こんなにもはっきりとモノを語らせたか思うとますます切ない気持ちになってくる。
この見たもの感じたものそして考えたものを、棺おけまでもっていかずに、われわれに残してくれたことに感謝したいと思う。

大地の咆哮 元上海総領事が見た中国

大地の咆哮 元上海総領事が見た中国

著者の「中国観は、外務省の地道な情報の積み重ねと分析のうえに、現地での政治・経済両面の実体験を加えて形成されたものだ」(同書まえがき)が、仮に外交官としての立場が今後もあったとしたら、ここまで思い切って書けただろうかと思う。
「中国の現状をたとえていえば、共産党一党独裁制度の旗の下、封建主義の原野に敷かれた特殊な中国的社会主義のレールの上を、弱肉強食の原始資本主義という列車が、石炭を猛烈に浪費しながら、モクモクと煤煙を撒き散らし、ゼイゼイいいながら走っているようなものだ。」(同書262ページ)
香港・台湾・上海あたりを何回か観光でまわったくらいで、中国を断片的一面的にしか知らないといえる僕としては、今の中国を理解していくための基本テキストにしたい。