二人乗りの車高の低いクルマ

しばらく車庫にしまっておいた「二人乗りの車高の低いクルマ」を乗り出した。
車庫から出してまもなく、エンジンがとまってしまった。ギアをニュートラルに戻し、クラッチを踏み、イグニッションキーをひねる。再始動の手順をすばやく行う。
しかし、エンジンに火が回らない。スターターモーターが回るばかりだ。
通りに、車体の半分を出したまま、一時停止の状態。エンジン回転計の針はゼロを指している。

車庫にしまい、エンジンをとめてから2週間ほど経っている。しかしどうしたことだろう。ガソリンは、満タンにしておいた。ガス欠ではない。
スターターモーターが勢いよく回る。5回目くらいうならせて、ようやくエンジンが再点火した。

山小屋の車庫から麓(ふもと)の車庫へ移動しようという矢先だった。一発で点火しないのはいつもとは違う状況だ。狭い道を通り抜けるのはよそう。少し遠回りになるが、再びエンジンが死んでしまっても、交通の邪魔にならない広い道をいくことにしよう。
すこしアクセルを吹かし気味に進んでいく。しばらくいったら、いつもどおりの調子に戻った。大事なくてよかった。
5キロほど走る。広い道で、農機具をのせた軽トラを追い抜く。長い下り坂を快調に飛ばす。


大きなゆるい下りのカーブをすすむ。すると車体に少し抵抗がかかった。なにもしていないのに、エンジンブレーキがかかった感じだ。おかしい。
とっさにクラッチを踏んだ。回転計はゼロに張りついてピクリとも動かない。
なんとエンジンが止まっているではないか!

気が付けばエンジンの音が消え、風切り音とタイヤ音だけが車内に響く。クルマは今惰性で走っている。
クラッチを切ったままスターターモーターをひねってみる。こんな状態でもスイッチを入れればエンジンが再始動することは古プジョーでよくあった。しかし今、このクルマはエンジンが始動してくれない。なぜだ?

スピードメーターは先ほどまで80Km/hをさしていたが、今60Km/hを切った。回転計の針と同じゼロにむかって、スピード計の針は、ゆっくりすすんでいく。緩慢に停止状態へむかって道路を行く。
下り坂がおわった。まもなくゆるやかな上りにさしかかる。あと何秒かの後、クルマは停止する。とうとうスピードメーターは40Km/hを切った。
せめて狭い道の真ん中で止まることは避けたい。空き地はないのか。早く。
もう少し行けば建設資材の置き場があったはずだ。クルマをそこに滑り込ませよう。
早く来い。

見えた。やばい。ユンボを載せたトラックが止まっている。スペースがない。

自転車と同じくらいの速度になった。ああ止まる。道の真ん中だ。もうダメだ…。
スペースまであと20メートルを残して、クルマは止まってしまった。


深呼吸する。おちつけ。大型のクルマが来る前になんとかしろ。

そうだ!
セルを回して進め。使えるものはなんでも使う。

ユンボを載せたトラックのすぐ後に割り込んで、交通の邪魔にならないようにした。


ひと息つく。ウィンドウを開ける。すずしい風がはいってくる。

何度スターターをまわしても火がつかない。どうしよう。

エンジンに火がつかないのは?
ガソリン供給パイプの目詰まり?
火花が散らないとすれば機械式デスビの問題?
心配していたコンピューターのコンデンサー液漏れ問題?
…。

お世話になっているクルマ屋さんを呼んだ。代車をローダーに載せて、15分ほどして飛んできてくれた。ありがたい。

しばらく預けることになった。


∇手入れもロクにしないことを棚にあげて機械のことを悪く言うのは勝手だけれど、もっとモノに気持ちを込めて接したほうがいいと思う…